錬金術師ソフィアの手記


どこかの助手のようには上手く書けないけれど。
私はこの時のことを書き残しておこうと思う。

私が双翼のキメラに興味を持ったのは必然だったのだろう。
合成獣という何者かの意思がきわめて強く働いて生まれた子。
それは「錬金術師」を名乗る私にとって無視できるものではなかったのだ。

双翼のキメラと過ごすようになって幾ばくかの時が過ぎた。
事態が動いたのはあの日、
工房の補強をするための丸太を求め、妖樹を倒した帰りだった。
妖樹から手に入れ、持ち帰ったものの中で双翼のキメラがやけに気に入ったものがあった。
それは何かの欠片だったのだが、あの子が強く執着するものに興味がわいた私は
欠片を探し集め、復元することにした。

…復元してできたものは筒飾りだった。



この飾りには覚えがある。確か聖獣とも呼ばれるあの翼獣のものだ。
ある地域で語られ描かれるその翼獣の翼は、
奇しくも双翼のキメラの片翼にとてもよく似ていた。

そのことを知るや否や飛び出した双翼のキメラを追い、
最果ての地に住まうその種に会いに行ったまでは良かった。
…しかし、双翼のキメラに会っても皆一様に首をかしげていた。



…予感はしていた。この子は合成獣なのだ。
普通の生き物のように母に抱かれて産まれたわけではないのだろう。

それでも全く収穫がなかったわけではない。…ひとつ興味深いことを聞いた。
どうやらこの翼獣のうちの1体はかつて捕われていたことがあったらしい。
その場所を聞いて翼獣たちとは別れた。
…母であろう者が自分のことを知らなかったのがよほどこたえたのだろうか。
隣を歩く双翼のキメラの小さな首はうなだれたまま、足取りはどこか重たかった。

教えてもらった場所、そこは廃墟だった。



…かつては実験所だったのだろうか。
私の工房でも見たような薬瓶や器具、おびただしい数の檻。
そして「よくないもの」の溜まり場となっていた。

この地で無念のうちに果てたのか、はたまた引き寄せられたのか。
襲い来る彼らを退けながら、ここでの探索を断念しようとした時

「おとうさん…?」

と呟く声が聞こえた。

静止する間もなく怨霊たちに飛び込んでいった双翼のキメラはそこでしっかりと見てしまった。

自らの左翼によく似た翼を持つ巨大な翼獣。
…その成れの果てを。

…この後のことはわざわざ私が記すまでのないことだが。
"とっとこさん"の力を借りて「おとうさん」はこの地の楔から解き放たれた。

消えていく「おとうさん」の姿を見上げながら、小さな背中は少し震えていた気がしたけど。
振り向いた双翼のキメラの目はしっかりと前を見据えていた。

ぼくはもうだいじょうぶ。
おとうさんもおかあさんも
ちゃんとぼくの背中にいる。
この重みはふたりのいるあかしだから。
だからもう。だいじょうぶ。

…だそうだ。

食べそびれて落としたけものこまちを追いかけ、
一緒に坂を転がり落ちているのを見るに、まだまだ独り立ちにはかかりそうだけれど。
もう少しこの子の成長を見守っておこうと思う。





ー××年某日。ソフィア


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